レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「わたし、七人兄弟なのね。それでわたしが長女なんだけど、家にはお父さんがいなくて、お母さんだけなの。だから、わたしが働いて弟達を養わなくちゃいけなくて。それで侍女になったんだけど。ほら、食事も寝る場所も気にしなくて良いから。給料は安定してるし、仕送りも毎回ちゃんと出来るでしょ」
そう言って晃は笑った。輝くような、優しい、僕が一番好きな笑顔。でも、僕の心はなんだかすごく、哀しかった。
「でも、この年になるとお付き合いとか、結婚とか良いなって思うものなのね」
晃は、はにかむように微笑む。
「じゃあ、火恋が成人したら辞めたら良いじゃないか。弟達が成人してからでも良いよ。この国に前例がないからって、出来ないわけじゃないだろ」
声音がつい、必死になってしまった。晃は優しい笑みを浮かべたままかぶりを振った。
「その頃には、いくつになってると思ってるの? もう誰も貰ってくれないよ」
晃は全然気にしてないように、楽しそうに笑う。
(やめてくれ)
無理を隠してるのか、本当なのかは分からない。でも、僕は哀しくて、泣きたくなった。そんな話は聞きたくなった。
――僕と結婚してよ。僕はいつまでだって待つから――唇がそう言い出そうとした。その瞬間、
「それにね。こんなことを言ったらおこがましいんだけど、火恋様は娘みたいなものなのよ。だから、出来ることなら、火恋様が即位なさるまで御世話をしていたいの。御即位なされた後も、支えになっていたいのよ。本当に、おこがましいけどね」
晃は今までで一番、柔らかく笑んだ。
「……愛してるんだね。火恋のこと」
「うん。愛してるわ」
温かい、春の日差しのような声音だった。
「そのセリフは、僕に言って欲しかったな」
低声な独り言は、晃に聞かれずに済んだ。
彼女は、「うん? なんて言ったの?」と、きょとんとした瞳で聞き返した。
僕は首を横に振る。
「なんでもない」
聞かれずに済んで良かったのか、聞き漏らさないで欲しかったのか、自分の気持ちは判らなかった。でも、僕はひっそりと腹に据えた。
晃が、火恋から離れようと思える日が来たら、火恋が晃の手を必要としなくなったら、その時が来たら、僕は晃にプロポーズしよう。
たとえ、晃がおばあちゃんになっていても。しわくちゃでも構わない。いつか絶対、晃に愛してると伝えよう。晃の答えがなんであったとしても――。