レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
その日の夕間暮れ、僕は自室で清書をしていた。
文机の前で胡坐を掻きながら、メモ帳とにらめっこする。清書を始めてかれこれ五時間は経過しているだろう。
(さて、次はどれを写そうか)
一つのメモ帳に目が止まって、僕の胸は痛んだ。それは、晃と食事をした日のメモだった。帰ってからあったことをすらすらと書いたものだ。
オウスに行く時は、火恋のことを口実にして行ってたから、王やマルに火恋のことを報告しなくちゃいけなかった。
だから、必然と火恋と過ごす時間も多かった。晃が常に側にいるから、晃ばかり見て火恋に密かにからかわれたこともあったけど、それもなんだか幸せだった。
結婚して子供が出来たら、あんな感じなんだろうか。
晃の笑顔が胸を過ぎる。
いつか、晃と結婚できたら良いのに。でも、それはまだまだ先になりそうだ。それに、告白が成功すると決まってるわけじゃない。
ただの友達だって、ふられるかも知れないし、仕事に生きたいと断られるかも知れない。
僕は憂鬱な気分で、文机に頬杖をつく。
恋をするって、楽しいことばかりじゃないんだな。本で読んで知ってたけど、こんなにも胸を締め付けられるものだとは知らなかった。
僕は適当にメモ帳を選んで、めくっていく。そのメモ帳は晃と街で偶然再会した日が載っていたものだった。
自然と笑みが洩れ、ふと、火恋のことはどうしようかと思い至った。彼女のことはいずれ正式に国内外にも発表されるだろうと思って報告してなかったけど、僕が先んじても良いだろうか。
「う~ん」
僕は唸ってから、報告書である巻物を閉じた。このことはやっぱり国同士のことに関係しそうだ。黙っておいた方が良い。
僕は筆を置いて、伸びをした。
「一休みしよう」
一段落すると、外から「ピュイー。ピュイー」と、甲高い鳴き声が聞こえた。伝使竜が縁側で羽ばたきながら、中に入りたそうにしているのが、障子ごしに影となって現れていた。どうやらもう、月が出てるらしい。
僕が障子を開けると、伝使竜はそよ風を纏いながら部屋へと入ってきた。籠に取り付けてある掴まり棒に降り立った伝使竜のホルダーから巻物を取り出した。
宛名を見ると、晃からだった。
僕は弾んだ気持ちで巻物を開いた。そのとき、縁側をばたばたと人が走り去って行った。僕は障子を開けて縁側を覗く。
「おい! どけ、どけ! 頭引っ込めろ!」
後ろから誰かが怒鳴って、僕は反射的に頭を引っ込めた。すると、陽空が慌てたようすで走り去って行く。僕は素早くその背に声をかけた。
「おい、どうしたんだ?」
陽空は提灯の明かりを揺らしながら、振り返って声高に叫んだ。