レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
一週間後の昼下がり、僕はオウスにいた。
晃の行きつけの定食屋で、晃と向かい合って豚竜のとんかつを頬張る。
晃はこの五年で、少し大人びた。二十六歳の女性に向って、大人びたは失礼かも知れないけど、晃にはいつ逢っても少女の面影がある。僕が出逢ったあの日を忘れられないからかも知れないけど。
逢うたびに、僕は晃にドキドキしてしまう。五年も変わらないんだから、この感情は、多分一生続くものだと思う。
晃がスープを飲むのを見て、胸がうずいた。気を紛らわせるために、僕は店内を見回した。
初めて来た時よりも少しだけ黄ばんだ白い壁、長椅子には他人同士で隣り合わせて座り、常連同士だろうか。この店で仲良くなったらしい客達が、「久しぶり」とか、「こっちに座りなよ」とか、声を掛け合って楽しそうに話をしている。
この店には何回か足を運んだけど、いつ来てもこうしてにぎわっている。
変わらないこの雰囲気に、僕は安堵して微笑が零れた。
でも、ふと、目に入ったメニュー表で影が差してしまった。
メニューはすっかり変わってしまった。豚や牛、羊、鶏、主食としていた肉という肉は魔竜に絶滅させられていて、もう食べることは出来ない。魚はまだ捕れるけど、それも時間の問題だろう。
「人間の食い物を奪うのも一種の復讐か……」
ぽつりと不安を零すと、
「どうしたの?」
晃は心配そうに尋ねて、空になっていたコップに水を注いでくれた。
「ありがとう」
僕は礼を言って、コップの水に一口くちをつける。
「魔竜のことについて考えてたんだよ」
「魔竜か……」
晃は不安そうに顔を顰めた。
「やっぱり、晃も気になってるの?」
条国の人は、他国の者ほど現状を楽観視してはいなかった。
僕が出会ったなかでは、神が護って下さっているから魔竜には襲われないという見方をしている人は一人もいない。