レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
「そんなこと気にすんなよ。心配なのは皆一緒だって。それに晃は、火恋の母代わりなんだから、娘の将来を心配するのは普通だよ」
「母代わりなんて、おこがましいよ」
晃は謙遜したのか、苦笑を浮かべたけど、どことなく照れくさそうでもある。
事実なんだから、胸を張ったら良いのに。条国の人は変なところで謙遜するよな。でもそこが、おごそかな感じで僕は好きだったりもするんだけど。
「私も、何か役に立てれば良いのに」
「立ってるだろ。立派に仕事をこなしてるじゃないか」
火恋は真面目に帝王学を学んだり、見聞を広げようと各国の歴史なんかも勉強してる。僅か十一歳の少女がいままでそうやってこれたのは、一番身近にいる晃のサポートなしじゃありえないことだ。
「私なんて、まだまだだよ。それに、命を懸けてるわけでもないし。レテラは、毎回実験について行くんでしょう?」
「出来る限りね」
晃は心配そうに眉を寄せる。
「僕だけじゃないよ。他の皆も行くし、逆に行かないときもあるし。ヒナタ嬢はあの魔竜に復讐してやるって毎回行くけどね」
「大変だね」
晃はまだ顔を曇らせたまま俯いた。晃は優しいから、きっと僕達が危険な目に遭うのが心配なんだよな――。僕は元気付けたくて声の調子を上げる。
「でも、魔竜が見つからないことも多いんだよ。行ってはみたものの、もういなかったとか。捜しても見つからなかったとか。十回行って、十回とも遭遇しなかったなんてこともあったくらいだよ。魔竜の根城が未だに不明だからさ、目撃情報があってから向わなくちゃいけないから、どうしても遅れるんだよね」
「そうなんだ」
晃はほんの少しだけほっとした表情をした。でも変わらず表情は晴れない。晃は不安そうに訊いた。
「どうして根城が見つからないんだろうね」
「多分、移動してるからだろうな。やつは世界各国で暴れてるからさ」
「……そっか」
晃の顔が更に曇ってしまった。
(しまった!)
僕は焦った。
やっぱり魔竜のことも不安だよな。ここは、遭遇率も高くなってるとか言った方が良かったかも知れない。嘘になるけど、晃が沈むよりは良い。
でも今更言っても遅すぎる。
どうすれば晃に笑ってもらえるか分からない……。僕は、無言で机の上のとんかつを見つめた。
「ねえ」