恋とさくらんぼ

嫌な予感

桃、大丈夫かなあ。

気合い十分で登校していった双子の妹を心配する余裕は、高校が近づくにつれてなくなっていった。

なぜなら、電車や通学路で、顔も名前も知らない女子や男子から、次々に話しかけられるからである。

桜と桃は姿形こそ鏡写しでも、性格は大きく異なる。

内向的で他人と関わりたがらない。これは桜。

外向的で誰とでもすぐに仲良くなれる。これは桃。

おしゃべりが苦手な桜にとって、数多の人間と笑いながら通学するのは、かなりの苦痛だった。

桃、友だち多すぎ……!

そして苦痛は校内に入るともっと酷くなる。

三年分の表情筋と声帯を、本気で使い果たした気になった。
< 10 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop