恋とさくらんぼ
膝の上に肘を置いて顔を支え、彼は面白そうに桜を覗き込んでいる。

「で、なんでそんな愉快なことしてんの?」

「……桃に頼まれたの。これ以上は言えないけど」

「えー。じゃあ関谷に訊こうかな」

「えっ」

桜は少し考える。

桃には入れ替わりがバレたことは知られたくない。情けなさすぎるから。

「……誰にも言わない?」

「言わない」

「桃にもだよ?」

「言わねーよ」

「……あのね。私が通ってる高校の男子に一目惚れしたんだって。桃が」

「え?」

ぽかん、と口を開けた表情は、初めて見た。

ちょっといい気分になって、言葉を続ける。

「その人に会いたいんだって。それで入れ替わった」

「ぶっ……あはははは!」

宮沢は噴き出した。

桜が驚くくらいの大爆笑である。

「あは、あはははっ、なにそれウケる! なんじゃそりゃ! 関谷ってそんなことするやつだったのかー!」

「なっ……ちょっ、うる、うるさい」

「ふっ……く、くっ、……くははっ」

笑いを堪えようとしているらしい。喉の奥から変な音がする。肩が大きく揺れている。

驚きを通り越して呆れた心境になってきた。
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