恋とさくらんぼ
「俺が蹴ったボールがあらぬ方向に飛んでいきまして……すみませんでした」

「そっ……いやっ、気にしないでくださいっ。大丈夫ですっ」

「簡単に許しちゃだめよ! 女の子なんだから!」

どこからか鋭い声が飛んでくる。保健医のものだ。

牧野がますます項垂れた。

「本当に……申し訳なく……」

「えっ、わっ、私は大丈夫なので……! ほんとに……! あんまり、気に病まないでください」

わたわたと、牧野と保健医を宥めるように言う。

桃より保健医が怒っているのに困惑したが、優しい人なんだろうと思ってほっこりもした。

「……怪我は?」

恐る恐る伺ってくる牧野の顔を直視できず、桃はさらに布団を引き上げる。

「平気です、全然。……本当に、気にしないでくださいね」

「そういうわけには……」

「牧野くんが辛いと、私も辛いんです」

呟くと、牧野はびっくりしたような顔をした。

虚をつかれた、とでもいうような。

「辛い……俺が?」

「え、だって……私にボールが当たっちゃったこと、辛く思っているでしょう?」
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