恋とさくらんぼ
牧野は風のように芝生の上を駆けていく。

味方からのパスを受け、軽やかに青い服の群れをすり抜け、ゴールへ。

「──牧野くん! いっけえ!」

桃から見えるのは彼の背中だ。距離は遠いし、喧騒の中で声が届くはずもない。

それでも桃は叫んでいた。いつの間にか立ち上がって、拳を握りしめる。

「いけ! 決めろ! ──好きだ!」

牧野の足から、ボールが鋭く放たれた。

キーパーの手は──届かない。

一直線にゴールを貫いた。

瞬間、会場が沸き立つ。歓声と悲鳴に溢れて、混沌が渦を巻く。

すとん、と桃は椅子に腰を落とした。膝の力が抜けた。
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