恋とさくらんぼ
リビングを覗くと彼は掃除機を手に取ったところだった。

「掃除してたの?」

「……そうだよ」

半ば諦めて桜は答える。

不思議なのは、自分が宮沢に対して本気で怒りを覚えたり怖く思ったりしないことだ。

そして昨日の別れ方は円満とは言えないものだったのに、なかったかのように気安く接していること。

彼の空気がそうさせる、厳密には彼のペースに巻き込まれているからだろうか。

「桜」

「!?」

驚いて転びそうになった。

「な、な、なに?」

「あんたって、まずは無言で驚くんだな」

「そんなのどうでもいいでしょ」

「掃除、手伝おうか」
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