恋とさくらんぼ
言うが早いか、桜がなにか答える前に彼はリュックサックをソファーに置き、掃除機のスイッチを入れる。

「い……いやいや、帰って! ていうかなにしに来たの!?」

「会いに」

騒音に負けまいと声を張り上げたが、宮沢は普段と変わらぬ声音で、そのとき初めて彼の声がよく通ることに気づいた。

「私に?」

「そりゃな」

「連絡すればよかったのに」

「返信くれなさそうだったから」

桜はぎくりとする。未読スルーをかますつもりだった。

「昨日さ、なにがかは知らんけど、あんたにとって嫌だったんだろ。なにかが。俺が巻き込んだようなもんだったし、もっかい謝っとこうと思って」

「……わざわざ、そのために?」

宮沢は掃除機を前後させる。桜がまだしていないところに掃除機をかけているのは、やはり勘がいいからだろうか。
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