優しい彼と愛なき結婚

散らばった破片を見つめながら綾人さんはふらふらと立ち上がった。


「大悟、よく見ろ。これが優里の選んだ道だ。おまえを捨てて、僕のところに来るそうだ」


我を取り戻した綾人さんは皮肉たっぷりに言う。


それは違う…と、喉まで出かけた言葉を止める。
否定したところで、大悟さんを裏切ったことに変わりない。


「ふぅん」


「おまえは僕に敗けたんだ」


「へぇ、そうなのか」


明るい声を出して、大悟さんは綾人さんのネクタイを引っ張った。


「そのうるさい口を閉じるにはどうしたらいい?息できなくすればいいか?」


口元に笑みを称える一方で、血走った目は本気だった。


目の前にいる彼が大悟さんであると疑いたくなるほどに、現状が信じられない。


「……」


綾人さんは言葉を失っていた。


「……よしよし、静かになったな」


そして鈍い音が響き、綾人さんは壁際に吹き飛んでいた。


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