優しい彼と愛なき結婚
恐る恐る水無瀬さんを見上げると、彼女は声に出して笑い始めた。
鮮やかなワンピースに身を包み、綺麗な足をさらけ出した彼女は細いヒールの靴を履き、正に完璧な出立だ。
「あははは」
高い笑い声に支配された部屋で、ふらふらと綾人さんは立ち上がった。
「違うんだ、水無瀬。説明させて欲しい」
「説明って?」
一瞬で笑いを消し去り、責めるような視線で水無瀬さんは短く言った。
「言い訳したいの?」
「僕は本当に水無瀬のことを愛しているんだ。そこに嘘はない」
背中をさすりながら水無瀬さんに近付く綾人さんを見て、申し訳ないけれど滑稽だと思ってしまった。
「愛?私はあなたを愛していないけれど」
吐き出された残酷な言葉と共に、彼女は綾人さんの頬を叩いた。