優しい彼と愛なき結婚
水無瀬さんが言い終わると、部屋は空調の音が聞こえるほどに静かになった。
頭を垂れる綾人さん、天井を仰ぐ大悟さん。
私は2人がこうなるきっかけを作ってしまったんだ。
「君は…僕のことを少しも好きでなかったのか」
「ええ」
即答だった。
「……僕は水無瀬を本気で愛していた」
「どうでもいいわよ、綾人の気持ちなんて。それよりその子を利用して、大悟に勝ったつもりでいたの?」
「……」
「あなたが本気で私のことを好きなのであれば、最初からあなたは大悟に敗けてたわ」
ーーだって、私の好きな人は高校時代からずっと、大悟だけだもの。
美しい女性が紡いだ言葉は、
2人の男を動揺させた。
綾人さんも大悟さんも同じタイミングで目を見開いて、彼女を凝視した。
「安心して。大悟にどうこうしてもらいたいわけじゃないから。疲れたから、帰るね」
「待って、」
大悟さんが引き止めると、水無瀬さんは首を振った。
「レイに送ってもらうから大丈夫よ。また連絡するわね」
現れた時と同じようにヒールの音を響かせて、水無瀬さんは颯爽と立ち去った。