優しい彼と愛なき結婚

水無瀬さんが言い終わると、部屋は空調の音が聞こえるほどに静かになった。


頭を垂れる綾人さん、天井を仰ぐ大悟さん。
私は2人がこうなるきっかけを作ってしまったんだ。


「君は…僕のことを少しも好きでなかったのか」


「ええ」


即答だった。


「……僕は水無瀬を本気で愛していた」


「どうでもいいわよ、綾人の気持ちなんて。それよりその子を利用して、大悟に勝ったつもりでいたの?」


「……」


「あなたが本気で私のことを好きなのであれば、最初からあなたは大悟に敗けてたわ」



ーーだって、私の好きな人は高校時代からずっと、大悟だけだもの。




美しい女性が紡いだ言葉は、


2人の男を動揺させた。





綾人さんも大悟さんも同じタイミングで目を見開いて、彼女を凝視した。



「安心して。大悟にどうこうしてもらいたいわけじゃないから。疲れたから、帰るね」


「待って、」


大悟さんが引き止めると、水無瀬さんは首を振った。


「レイに送ってもらうから大丈夫よ。また連絡するわね」


現れた時と同じようにヒールの音を響かせて、水無瀬さんは颯爽と立ち去った。


< 113 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop