優しい彼と愛なき結婚
再び静寂を取り戻した部屋で最初に動いた大悟さんはベッドに近寄り、私を見下ろした。
その瞳に宿る感情を私は読み取ることができない。
「危ないから、じっとして」
大悟さんは私の背中に手を回し、持ち上げた。
「大悟さん?」
「ガラスで足切るから。玄関まで運ぶ」
先程までとは違い、穏やかな口調であったことに安堵してされるがままになる。
「ごめんなさい…」
裏切った事実は消せないし、許してもらえるとは思わない。それでも謝りたかった。
なにも返事をくれず、私を抱えて歩き出した大悟さんの表情は見れなかった。
崩れ落ちたままの綾人さんの肩は震え、初めて彼のことを可哀想だと思った。
彼は最愛の人を最悪なかたちで失ったのだから。