優しい彼と愛なき結婚
玄関で靴を履き、大悟さんの後についてホテルを出た。
すぐにタクシーに乗り込み、大悟さんが告げた行き先が自宅であることに安心した。家に帰ったらきちんと謝りたい。
窓外を眺める大悟さんはタクシーの中で一言も発しなかった。
居心地の悪い長い時間をタクシーの中で過ごし、やっと自宅に着いた。
しかし305号室の扉を開けたところで、大悟さんは部屋の中には入らなかった。
「俺は友達の家に泊まるよ」
「待って。話がーー」
「今日は冷静に話せそうもないから」
「お願いします、少しだけでいいので…」
ギュッと、大悟さんのジャケットを掴み、無理矢理に玄関に上がらせる。
今、離したら私たちは終わってしまう。
「なにを話すの?それとも俺に申し訳ないから、謝りたい?」
「それは…」
大悟さんの背後で扉が静かに閉まった。