優しい彼と愛なき結婚
「これからのこと、考える時間をくれ。もちろんアンタが俺とはもう無理だという結論に至ったら、離婚届を出してくれて問題ないから」
「なんで、そんなこと言うんですか……」
声が震える。
「俺はアンタを助けてやりたくて、結婚を申し出た。おごましい行為だと、今は反省してるがな。だけど、アンタは、俺に相談せず、こそこそと綾人とホテルまで行った。それってさ?俺が居る意味ある?綾人との結婚から逃れたくて、俺と結婚したんじゃないの?それなのに結局は綾人に丸め込まれて、俺ってなに?いらなくね?」
「大悟さん…」
「なぁ、教えてくれよ。俺たちの結婚生活に、なにかひとつでも意味があったか?」
答えの代わりに涙が溢れた。
泣くなんて卑怯だと分かっているのに、止まらない。止められない。
「意味は…、なかったよな」
静かに、大悟さんは答えを出した。
いくら口頭で否定したところで、その答えを覆すことはできないだろう。
私は大悟さんを裏切ってしまった。
「これ以上、綾人の好きにはさせないから。それだけは約束する」
私の返事を待たずに、そう言い残して大悟さんは出て行ってしまった。
私には止める言葉はなく、伸ばし手は宙を掴む。
今日ほど自分の行いを悔いた日はない。
むせるほどに涙を流し、それでも哀しみは止まらなかった。