優しい彼と愛なき結婚
答えられなかった。
大悟さんの髪からは私と同じジャンプーの香りがして、とても甘い。
「優里、寝ぼけてる?」
どうして名前で呼ぶの?
いつもは"アンタ"の方が多いくらいなのに、耳元で名前を囁かれる。反則だよ…。
「…起きてました」
心臓の音がうるさくて、もう寝ているフリは続けられない。觀念して答える。
「早く寝なさいって言ったんだけど」
大悟さんは不満気に言うけれど、その腕は私の身体に巻きついたままだ。
「すみません。この状況を説明いただきたく…」
「ん?嫌?重い?」
「……大悟さんの方が寝ぼけてます?私を抱き枕と勘違いしてたりして」
あはは、と乾いた笑いをしてみる。
「いや?これから寝るところだし?」
あっけなく抱き枕説は否定された。