優しい彼と愛なき結婚
どんな言葉を紡がれてもなるべく動揺しないようにと、心を決める。
「ホンモノの定義がよく分からないけど」
私と目を合わせ、大悟さんは口を開く。
「俺は婚姻届を出したその日から、ホンモノの夫婦だと思ってたぞ」
え?
彼の答えは予想していたものと違った。
「普通の夫婦とはかたちこそ違うが、それでも偽りの夫婦生活だと思ったことは一度もない」
きっぱりと言い切った大悟さんは手を伸ばし、私の額を指で弾いた。
「痛っ、」
「もうくだらないこと気にしてないで早く寝ろ」
そう言いつつ彼も目を閉じる。
それはもうなにも話すなという彼の拒絶にもとれる。
「おやすみ、優里」
「おやすみなさい…」
私も刺激的な夜にこれ以上の疲労感は味わいたくないため、目を瞑る。
ニセモノの夫婦。
私は最初からそう思っていた。