優しい彼と愛なき結婚
苦く、甘い休暇
午前10時。
2人で電車に乗り込む。
既に車内は混雑していて、子供連れからカップルまで休日を満喫しようとする人々で溢れている。
大悟さんがフリースクールの生徒に届けたいものがあると言うので、一緒に付いていくことにした。
「ごめんな、昨日解けない問題があって家に持ち帰ったんだよ」
「いいえ、まだ時間はたっぷりありますから。でも私がお邪魔して大丈夫でしょうか」
「人見知りの奴らが多いから打ち解けるには時間がかかるだろうけど、アンタならすぐに人気者になれるさ。嫌じゃなかったら、また顔を出してやって欲しい」
「私で良ければ…」
沢山の人が降りたと思ったら、それ以上に乗り込んでくる。より奥に押し込まれそうになると、大悟さんが手を引いてくれた。そして自身の胸に私を招き入れてくれる。そうすることが当然であるかのように。
「フリースクール寄ったら、どこ行こうか?アンタのことだから、やっぱりどこでもいいなの?」
縮まった距離。
私の頭上で大悟さんの声がする。
平然としている彼には分からないだろう。この胸の高鳴りが。まさか聞こえたりはしてないよね?
「大悟さんがよく行く所に行きたいです。…大悟さんのこと、もっとよく知りたくて…」
迷惑でなければ、あなたのことがもっと知りたい。