優しい彼と愛なき結婚
フリースクールは駅から少し離れたところにあるが、たくさんのお店が立ち並ぶ大通りにあるため楽しみながら通えそうだ。
その中でも子供にはなかなか手を出せない高級パン屋でパウンドケーキを買った。子供は質より量だろうし、大きめのケーキだ。
「こりゃ、あいつら喜ぶわ」
「ちょうどお昼時ですしね」
お店を出るとすぐに入った時と同じように、大悟さんは私の手を引いてくれた。大きな手に包まれていると安心する。
「俺たちのお昼はもう少ししたらで良いよな?もう行き先を決めたから」
「どこですか」
「それは行ってのお楽しみ…うおっ、」
突然、隣りを歩く大悟さんが前につんのめる。
その拍子に私も体勢を崩し、大悟さんの腕を思い切り掴んでしまった。
「羽奈、急になんだよ」
大悟さんの背中に少女がしがみついていた。
腰までのロングヘアーは艶があり、卵のようにツルツルな肌。十分可愛らしいのだけれど、その睫毛のマスカラとブラウンのアイシャドーは彼女を大人の女性に近付け、唇の真っ赤なルージュは色気さえも生み出す。
「誰、この女」
せっかく可愛いのに、怖い形相で私を睨みつけてくるものだから台無しだ。
「大悟から、離れて」
大悟さんに掴まる私の手を叩き、間に割り込んできた。