優しい彼と愛なき結婚
フリースクールの生徒だろうか。
大悟さんの手を引いて、建物の中に入ってしまった。
「ごめん、優里。フリースクールはここの5階。エレベーターがないから、階段でな」
「大悟、早く早く」
少女に手を引かれるがままに階段を上っていく大悟さんの後姿に、さっきまでそのポジションは私だったのにと子供相手に文句を言いたくなる。
2人に続いて階段を駆け上がった先の青い扉の中に入る。そこは緑の絨毯が一面に引かれ、開け放たれた窓からは心地の良い風と光が差し込んでいた。
「あなたは帰ってよ!」
ドンっと、お腹を押される。
「羽奈!止めろよ」
仕切りのない広い空間で勉強机やソファーに座っていたフリースクールの生徒たちが何事かと一斉に私を見る。
「なんでお姉ちゃんにこんなことするんだよ!」
「大悟さん…私は大丈夫だから」
大悟さんに怒鳴られ、羽奈ちゃんの肩がびくりと震えた。
彼女が大悟さんに抱く好意は明らかで、彼女にとって彼に怒られることは辛いはずだ。