優しい彼と愛なき結婚
やっぱり来ない方が良かったかな。手土産を持つ手に力を込める。
「羽奈。離れなさい」
奥の部屋から白髪に眼鏡をかけたジャージ姿の男性が現れた。50代後半だろうか。
羽奈ちゃんは男性に素直に従い、悔しそうに私を見上げた。
「大悟は私のモノだから!」
宣戦布告というのかな。
この子はこんなにも一生懸命に大悟さんを愛しているのに、私は自己都合で彼を彼女から奪ってしまった。
ーー私は大悟さんの妻だから!
そんな風に堂々と戦う資格が私にはない。
「羽奈。残念だけど、俺は優里のものだよ。ごめんな?」
屈み込み、羽奈ちゃんと目線を合わせた大悟さんは彼女の頭を優しく撫でる。
「どうしようもなく俺は優里に惚れてるんだ」
子供相手に熱烈な言葉を投げかけた大悟さんは真剣な表情だった。
子供だと邪険にせず、真正面から向き合っていた。
ああ、大悟さんらしいな…。