優しい彼と愛なき結婚
大悟さんと生徒のやり取りを微笑ましく聞いてると、羽奈ちゃんの視線に気付く。笑い掛けることもおかしいし、かと言って無視もしたくない。反応に困っていると、羽奈ちゃんは言った。
「ねぇ、なんで指輪してないの?」
それは少女が抱いた素朴の疑問なのか、それとも探りなのか。
「…買いに行く時間がなくて。後回しになってます」
少女がタメ口、私は敬語。とてもおかしな会話である。
「本当に大悟が好きなの?」
「好きです」
少女の真っ直ぐな想いに感化されたように、スッと言葉が口から出た。
なんとなく大悟さんの顔を見れない。
「…そっか、」
続いた言葉は、"もう、いい"だった。
「あなたのことライバルとは認めるけれど、大悟の結婚相手としては認めないわ」
綺麗な瞳が私を見つめる。
汚い大人には到底マネできない真っ直ぐで純粋な視線だ。
「私が大人になって大悟を奪うんだから」
「負けません」
即答する。
羽奈ちゃんが大きくなって再び大悟さんのことを好きだと告げた時、私は彼らの側に居るのか分からない。それでも居続けられる努力はするつもりだから、負けられない。
負けたくない。
「それではライバルの誓いということで握手したらいいよ」
私の手と羽奈ちゃんの手をとった園長はそれらを結びつける。
羽奈ちゃんの手はすべすべでとても気持ちが良い。
固い握手をした私たちはどちらともなく笑い合った。