優しい彼と愛なき結婚
されるがままになると、同じように上半身に着ていたものを全て剥がされた。
部屋が暗いことがなによりの救いだ。
「触れる前に聞いておく。経験は?」
まるで誕生日か血液型を聞くかのような事務的な口調だった。
「大学時代にそういう雰囲気になったことはあったけれど、最後までは…」
全てを相手に委ねられずに結局、逃げ出した。ひとりホテルに置き去りにされた彼のことを考えるといたたまれない。謝って済まさることでないだろうから、彼のプライドを傷つけないためにもそれから会うことはなかった。それまでの関係だったのだ。
「そうか」
淡々とした答えだ。
事のはじまりはみんなこうなのかと、これまた答えの分からないことを考えてしまう。
彼はそっと私に触れた。
昨日触れられた場所と同じところを昨日より丁寧に、より時間をかけて執拗に触れてくる。
「ん…」
「声、我慢しなくていい」
そんなこと言われても、上半身を滑るように動く手に頭がクラクラするよ。