優しい彼と愛なき結婚

歩夢は赤いジャージ姿でこれからフットサルの練習に行くようだ。


「ねぇ、大悟さん」

「ん?」

まかないのカレーを食べ終え、食器を洗う手を止める。


「俺の将来の夢、高校の時から変わってない。少しでも給料のいい仕事に就いて、姉ちゃんを楽させてあげること。…フットサルも、就活の時にネタになるかなって思って続けてる」


「そうか」


「それが先週に、フットサルのマネージャーをしてくれている女子から告白されて。俺も可愛いなぁと思っていた子で」


恋愛相談だろうか。不得意な分野だが、とりあえず歩夢の隣りに座る。


「俺のボールを蹴っている姿に惚れたんだってさ。就活のためにやってる俺にだよ?それにバイト代は必要最低限だけ使って、ほとんどを貯金してて。女の子と遊ぶ余裕はない」


栗色の髪をわしゃわしゃとかき混ぜて、机に突っ伏した。



「そう頭では分かっているのに、すぐに断れなかった。この口から出た台詞は"考える時間をちょうだい"だよ?なにを考えるって言うんだか」


「バイト代で、彼女と遊べばいいじゃんか。家に入れてるわけじゃないだろ?」


「姉ちゃんは絶対に受け取ってくれないから、貯めてる。でもうちには借金があるのですよ?」


姉が姉なら、弟は弟だ。
ここまで責任感が強いと、生きることはひどく息苦しいのではないか。


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