優しい彼と愛なき結婚
突然やってきた男をすぐに家族として受け入れることは難しいだろう。まだ俺たちには時間が必要なのだ。
優里の言う"ホンモノ"って難しいな。
「姉ちゃんの誕生日プレゼントのために無茶なバイトをしたんだろ?だったら今年は貯金を崩して、なにか買ってやれば?」
「大悟さん…」
「マネージャーにも何か贈ってやればいいだろう。喜ぶぞ」
しばらくうなだれていた歩夢が急に立ち上がり、その拍子に椅子が倒れた。
「そうします!大悟さんの言う通りです。俺はフットサルも彼女も好きなんだと思います」
「だったら早く彼女に会いに行け」
あの日、
綾人と水無瀬、そして優里のスリーショットを反対車線から見つけた俺は、走った。
俺が割って入っても状況が悪くなるだけと思いながらも、明らかに動揺している優里を放っておけなかった。
もしあの時、駆け出さなかったらーー喫茶店での雨宿りはなかっただろう。
「はい!行ってきます!」
勢いよく店を飛び出して行く歩夢を黙って見送る。
どうやら歩夢にも春がきたらしい。