優しい彼と愛なき結婚

いつ来ても月島家は緊張する。
それでも今日は大悟さんがお世話をしている花々を意識して見ることができた。

手前に咲いている花はコスモスだろうか。可愛らしい桃色だ。


見すぼらしい格好ではお邪魔できないと私が新調したワンピースも桃色だ。


「なかなか来てくれないのだもの、待ち遠しかったわ」


初めてそう言って大悟さんのお母様は私を迎え入れてくれた。


「なかなか顔を出せずにすみません。こちら、いつものです」


定期的に封筒を持って、月島家に訪れる。
少しずつでもお金を返して、返済の意志があることを示しているのだ。


「いつものって…あなたは大悟の結婚相手よ。もう受け取れないわ」


お母様は大きく手を振って、封筒を受け取ってくれなかった。


「それとこれとは、話が別です。お借りした分は必ず全額返済いたします」


「…全て帳消しになったわよ。あなたは大悟と結婚してくれたのだもの」


「そんな。私が大悟さんと結婚してもらった立場です」


お母様と2人きりで向き合ってお茶をいただくことはあったけれど、いつもの刺々しさが今日は感じられなかった。


< 206 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop