優しい彼と愛なき結婚

駅前の商店街を並んで歩く。
2人とも来たことのない街だけれど、綾人さんが近寄らなそうな場所を敢えて伝えた。


「あんたは嫌いなものある?」

「特には…」

「じゃぁ、あそこにしよ」


彼が指さしたお店は回転寿司だった。どこにでもあるチェーン店。

もっとゆったりした雰囲気の中で今後のことを話したかったけれど、仕方ないか。私の胃袋もさっぱりとした寿司なら受け入れられそうだ。


「相手は、兄でなく俺だぜ?もっと肩の力抜けよ」


寿司屋の扉に手を掛けながら背中越しに言ってくれた。


「この間、あなたが提案したくれたことの返事、"イエス"だったらどうします?」


絶対にこのタイミングで言うべきことではないのに、焦っていた気持ちが口から漏れてしまった。

冗談だよ、と笑い飛ばされることも覚悟の上だ。バカにされても仕方ない。


「ああ。俺にしとけ」


しかし返答は穏やかな声色で、冗談には聞こえなかった。


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