優しい彼と愛なき結婚
「仕事の件なのですが…」
月島家から見たら大した職場でないことは承知の上だけれど、借金返済のために働かなければなにも始まらないし、終われない。
「仕事って俺の?」
コロッケに手を伸ばした大悟さんは私の言葉を無視して質問を返した。それは私にとっても予想外の言葉だった。
「この子ったらなに言ってるのかしら。優里さんの仕事に決まってるでしょ」
「母さん、俺の収入だけで食べていけると思ってる?優里に働いてもらわないと、俺たち餓死するよ。これから新居も見つけないとだし」
優里(ゆうり)。
初めて大悟さんが名前で呼んでくれた。
盛大な溜息をついたご両親の前で表情が緩まりそうになり、慌ててポーカーフェイスを装う。
どうか私たちのこと、疑われずに認めてくれますように。