優しい彼と愛なき結婚
桜野 優里(さくらの ゆうり)
29歳。
両親は小さい頃に他界して、祖母に育てられた。もう永いこと、祖母と弟の3人暮らしだ。父の親友である"月島家"には多くの恩がある。祖母の手術費用など金銭的援助をしてもらい、一方的に助けられてきた。出世払いという恩情に甘えて未だになにも返せていない。出世ができるかも分からないのに…。
月島家の跡取りであり、幼馴染でもある綾人(あやと)にもたくさん気にかけてもらってきた。彼の人となりもよく知っている。
だからこそ、言いたい。
私は綾人さんを異性として好きになることはないと。
むしろ苦手だ。
幼馴染として多くの時間を共有してきたからこそ、即答できる。
彼のプライドを傷付けずに上手く断る術はないかと考える時間を伸ばすため、「恋人から始めたい」そう申し出た。
それでも綾人さんが結婚を望んでくれている以上、その気持ちを蔑ろにはできない。恩を仇で返すことになってしまうから…。