優しい彼と愛なき結婚
けたたましい音が部屋に響く。
ああ、私の携帯のアラームだ。
聞き慣れた音に枕元に手を伸ばす途中で、音が消えた。
あれ?もしかしてコンセントに差し込むことを忘れてバッテリー切れだろうか。
会社に行きたくないな、と思いながら重たい瞼を開ける。
「おはよ」
視界いっぱいに映った日焼けした、だけどきめ細かい綺麗な肌。
「え?」
「もう夕方だよ。よく寝たね」
アラームが止められた携帯を掲げられ、そのディスプレイに浮かぶ16時の文字にハッとする。
「やばい!遅刻……え、今日は…」
「仕事はお休みだよ。お腹すいた?」
「大悟さん!?」
慌てて飛び起きると、間近にあった大悟さんの頬と私の額が衝突した。
「どうせぶつかるなら、唇にしてくれる?」
「……すみません」
昨日、引っ越しをした。
もちろん覚えてる。
それからーー