優しい彼と愛なき結婚

「アンタ、俺がシャワー浴びてる間に寝ちゃってた。まさかこんな時間まで目を覚まさないとは思わなかった」


記憶を辿るより先に、大悟さんが答えをくれた。


「私をベッドまで運んでくれたのですか?」


「おう。お姫様だっこってやつで」


「すみません…」


「さっきから謝ってばっかだな。夫婦なんだから気にすんなよ」


お姫様だっこ…そんな恥ずかしいことをさせてしまったのだから、謝らせてください。
ああ、初日から大失敗だ。


「でも…重かったですよね」


身体についた肉を恨めしく思いながら、今度こそ起き上がる。


「いや?先に寝られて、寂しかったけど」


初夜…再びその単語が浮かび、慌てて頭から振り払う。そして話題をすり替えた。


「お出掛けも行けなくて、本当にごめんなさい」


「いいよ、別に。これからいつでも行けるだろ」


立ち上がった大悟さんは笑って許してくれた。


「おにぎり握ってやるよ。少し食べたら、外に甘いものでも食いに行こうぜ」


「はい!」


大悟さんは見掛けは強面だけれど、実際には腹を立てたり、怒ったりするところを見たことがない。

まだ私が彼のことを一部分しか知らないせいか、それとも温厚な性格なのか…。

夫婦であっても、知らないことは沢山あるのだ。

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