優しい彼と愛なき結婚
綾人さんの手が止まる。
こちらの抵抗に一瞬だけ目が見開いた。
「どうしたの。怖い?優しくするから大丈夫だよ」
「お願い止め…」
再びキスを落とされ、頰を撫でられる。
ぞわりと鳥肌が立ち、涙が出た。
「ーーそいつ、本気で嫌がってんじゃん」
不意に聞こえた声に綾人さんの顔が強張り、切れ長の瞳が更に鋭くなった。
「てかドアくらい閉めろよ」
「…出て行け!」
綾人さんは振り返らず、大声を上げた。
珍しい怒鳴り声に私の方が過剰に反応してしまう。
こっちを向いて怒るものだから、私が叱られている気分だ。
いつも冷静で優しい綾人さんの嫌悪の表情に、初めて彼の負の感情を見た。