優しい彼と愛なき結婚
「大悟さんのおにぎり凄く美味しかったです」
「な?塩加減が絶妙だろう」
カフェでお茶をすることになり、大悟さんは私のお気に入りのお店に行きたいと言ってくれた。
マンションから15分程度のカフェに案内することにした。最近できたカフェだがヴィンテージな雰囲気があり、とても落ち着く空間が用意されている。
「少し歩くのですが、いいですか?」
「余裕」
今日の大悟さんは可愛らいパグのイラスト入りTシャツと、ジーンズだった。彼にはラフな格好がよく似合う。
「それよかアンタ、仕事大変なの?」
「うちは大きな会社ですけど、私がいる営業所には5人しか居なくて。近くに東京本社があるので、仕方ないんですけどね」
「それじゃぁ辞めて専業主婦になることを夢見てたとか?」
「いえ。今の仕事、営業なのですがやりがいは感じています。自社商品には自信をもっているので、後は売るだけなのです」
5人のうち誰かがサボっているわけでもない。みんな必死働いている。
「それにみなさんに結婚のこと報告したら、遠慮なく長期休暇とって良いと言ってくれました。けど私は沢山働いて借金を返さなければならないのでーー」
月島家に借金を返すことが私の最優先事項だ。
「それでも大悟さんの結婚生活はきちんとします。ご飯も掃除も洗濯も、全部私がやりますので安心してくださいね」
これ以上の迷惑を大悟さんにかけるつもりはない。