優しい彼と愛なき結婚
くるりと身体を回転させ、足を止めた大悟さんは笑った。
「俺は亭主関白な設定なの?家事嫌いじゃないし、女が家事をやることが当たり前と思うような古い人間でもねぇよ」
「でも…」
「無理して倒れられる方が困るし、分担しようぜ。全てアンタが背負うことはない。夫婦なんだから半分こすればいいだろ」
なんだろう。
目頭が熱くなる。
こんなに理想的な旦那さんが居るだろうか。
「仕事もできて家事もしてくれる奥さんの横で、フリーターの俺が小さくなってるのもかわいそうでしょ?」
「つ、そんなに大きな身体で小さくなってるのですか?」
部屋の隅で小さくなった彼を想像して笑ってしまう。
そんな私を指差して大悟さんは白い歯を見せて笑った。
「おまえ、やっと笑った」
「え?」
「綾人と結婚云々って時から、アンタ笑ってなかったぞ。作り笑顔は月島家の専売特許だから、アンタには似合わない」
「大悟さん…」
「さ、早く案内してくれよ」
「後少しです」
おう、と短く返事をして前を歩き出した大悟さんの手を取りたくなる。
誰かと手を繋ぎたいと初めて思った。