優しい彼と愛なき結婚
それぞれの事情
8時30分。
セキュリティーカードをタッチしてオフィスに入る。
「おはようございます」
「おはよ」
「おはよう」
私の挨拶に対して先に答えてくれた方は真中 奈緒(まなか なお)先輩。東京営業所、唯一の事務職だ。
上品さが溢れるボブスタイル、真っ赤な唇で大人な女性。なにより豊満なボディーが魅力で、女の私でも惚れるカッコいい女性である。年齢は不詳だ。彼女曰く女性に年齢は聞くものではないとのことで。
「目黒工務店さんからメールが入ってるが、俺が対処しておいたから返信不要だ」
そう声を掛けてくれたのは、市野 真琴(いちの まこと)先輩。
七三分けの前髪。ストレートな襟足短めな黒髪で、真面目な性格だ。東京営業所の営業成績トップに10年連続で君臨している。全社ベースでも相当優秀で、厳しいが面倒見の良い先輩だ。
年齢は大悟さんと同じくらいかな。
残り2名は課長と今年の新入社員だが、壁にかかったボードに今朝は取引先へ直行と書かれていた。
「どう?新婚生活は?」
「順調にいってます」
隣りに座る奈緒さんが身を乗り出してくると、ふんわりと甘い香水の香りが漂う。
「行ってきますのキスしたの?」
「なっ…」
「その様子だとしてないわね。明日は優里ちゃんから仕掛けなさ。いいわね?」
そう言われても頷けるものですか。