優しい彼と愛なき結婚

今朝はーー
大悟さんより先に起きて、パンと卵という簡単な朝食を作った。冷凍食品は一切使わずに作ったお弁当を渡すと、とても喜んでくれた。

大悟さんが後に家を出るので玄関まで見送ってもらいはしたが、キスをするような甘い雰囲気は皆無だった。


大悟さんは寝巻きの白いTシャツを捲ってお腹をかいていて、それがセクシーすぎて直視できなかった。眠気により気怠げであり、完全無防備な彼に、心を許されているような気がして嬉しくもなった。



「気をつけて」

「はい、いってきます」


うん。これで十分じゃないか。
キスなくとも、今の私は幸せだと断言できる。






「今度、会わせてよ」


紅い唇から吐き出された言葉に、素直に頷けなかった。

いつかは解消される結婚だから。出来るだけ彼とは会わせたくない。
ごめんなさい、奈緒さん。


「はい、ぜひ」


平気で口から嘘が溢れるようにもなってしまった。困ったな…。

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