優しい彼と愛なき結婚
始業開始まで後10分。
パソコンを起動しながら、今度は私から話題をフッてみた。
「奈緒さんは、お医者さんの彼氏さんとはいい感じですか?」
「この間、彼の両親に紹介してもらって。まぁプロポーズまでもう少しってとこ?」
「さすが奈緒さんです」
奈緒さんは仕事だけでなくプライベートも充実していて、個人病院の跡取りである男性にアプローチをかけて見事に付き合うことになった。
まぁ、"絶対に私を好きになる"って言って最初から揺らぎなかったけれど、そう言えるまでの自信をもっていることが凄い。
「結婚しても仕事は辞めないから。夫の収入に頼るだけの女にはならないわ」
「それを聞いて安心しました」
「優里ちゃんはどう?彼と離れたくないって思わなかった?本当は今日も来たくなかったとか?」
「まさか、そんなことないですよ」
笑って返事をしてみたものの、どうだろう。もし私に借金がなければ正直、会社に行きたくないと思ってしまっただろう。
もっと大悟さんと一緒にいて、彼の世界を知りたいと思い始めている自覚はある。
もちろん許されないけれど。