優しい彼と愛なき結婚

口元に笑みを称えて、私に顔を近付けた。
慌てて顔を背けると、耳に彼の吐息が触れる。


「金、やるよ」


はい?




「一回、俺と寝て。そうしたら借金分の金を支払うよ」




ぞくりと全身の鳥肌が立つ。



なんとか力を出し、彼と距離を開けて、向き合う。



「優里の言うように君は僕にとって都合がいいから、求めただけだ。利用できないのなら捨て駒同然だが、それじゃぁ面白くないからね。大悟のことを裏切って、苦痛に歪む君の顔が見たい」


最低、変態、下衆。
様々な言葉が頭を駆け巡るが、あまりにバカすぎて口に出せなかった。



「どうせ借金のことで大悟の力を借りるつもりはないのだろう。だから僕が助けてやると言っているんだ」


私のことを分かったように話すあなたの言葉は正解で、それがまた腹ただしい。



「僕は君に金を恵むわけではないよ。君は自身の身体で支払うんだ」


「私にそんな価値があるとは思えないけど」


「それは僕が決めることだよ。1週間後、定時に迎えに来る。君を抱けたら、僕はもう優里に付き纏わないと約束するよ」


穏やかな口調に戻り、綾人さんは優しく笑ってくれた。そうすれば多くの異性が彼に惹かれると分かっているかのように。


「絶対に行かないわ」


「君は来るよーー今すぐ借金返せたら、弟さんも少しは贅沢できるよね」


私の一番の弱みを突いて、綾人さんは車に戻って行った。


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