優しい彼と愛なき結婚
弟のために。
他の誰かのためでなく、歩夢のためであればなんだってできるような気がしてきた。
彼の性格上、口から出まかせを言うようなことは考えにくい。私さえ許せば、大金が手に入る。
そして借金を返して、今働いているお金は歩夢の将来のために使って。月島家とは縁を切れる。
それは新しい人生と呼べるだろう。
正しいとか、汚いとか、そういう類の言葉で幸せは図れない。お金が全てだと吐くつもりはないが、少なくともこの世界でお金がない者は弱者である。
大悟さんには絶対に相談できない。
全力で止めてくれるだろうし、こんなことで揺らぐ私を心配してくれるだろうから。
ーーそんな大悟さんを私は裏切れる?
弟のために、大悟さんを?
重い足を引きずりながら営業に回ったが、惑う心では仕事の結果も出せなかった。