優しい彼と愛なき結婚

フリースクールと呼ぶくらいだから生徒それぞれ好きな時間にやってくる。
勉強する者も居れば、趣味のことに取り掛かる者もいる。

学校にも家庭にも居場所を見つけられない少年少女の集まりだ。

今日は10人ばかり来ていた。
いつもこんなものだ。

繁華街でうろうろしている学生に学園長が声を掛けることで、フリースクールへの出入りが許される。そんなゆるい感じだから、生徒の総数は不明だ。


「これ、解答を見ても理解できません」


たくさん付箋のついた問題集を開いた浅木(あさぎ)は俺の隣りの椅子に座った。

ひとつのテーブルに向かい合って座る。

浅木はスポーツ推薦で高校に入ったものの怪我をしてしまい、部活を止めなければいけなくなった。それをきっかけにイジメが始まり、今はほとんど学校に行けていない。

世間から見ればイジメなどよくある話だろうが、目の前に起きているとなると話は別だ。怒りという黒い感情に支配される。


「これは2つの公式を引用しているんだ」


解き方を持ってきたメモ帳に書き写す。

浅木も少しずつ立ち直って勉強したいという意思を見せ始めたから、きっと大丈夫だろう。世の中、学校に行くことだけが正しい道ではない。


「そういうことか!さすが大悟さん!」


「これくらいは余裕だ。他にもあるんだろ」


「付箋のところ全部聞いていい?」


「当たり前」


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