一途な御曹司と16歳の花嫁
そんな穏やかな時間を過ごしているうちに、私の記憶は絡まった糸がほどけるように、少しづつ甦ってきた。


イオくんがかつて奏でてくれたバイオリンの優しいメロディと共に。


それはイオくんと私との6年前の小さな恋物語。


どうして忘れていたんだろうって思えるような甘酸っぱい思い出ばかり。


父は彼と私があまり仲良くなかったみたいに言ってたけど、そんなの大嘘だった。


彼は優しかったし、おばあさまの部屋に私が来てる日はたいてい会いにきてくれて一緒に遊んでいた。


優しくて綺麗で頭もいいイオくん。私のためにだけバイオリンを弾いてくれたこともある。


私が彼に淡い恋心を抱くのは自然なことだった。




ピンポーン


インターホンのカメラでその人を確かめたら、一目散に駆け出した。


母は少し前に父のお見舞いに出かけていたから、家には私1人だった。


いつものように玄関ドアを開けるとその人は私を見るなり明るく笑いかけてくれた。


「イオくん」


「つむぎ、いい子にしてたか?」


制服姿の彼は学校が、終わってから真っ直ぐに会いに来てくれたようだ。


「うん」


「体調は?」


「まだ少し良くないかな。あまり食べたくないの」

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