一途な御曹司と16歳の花嫁
「無理だよ、父は今度こそ私を連れて出ていくって言うかもしれない。南さんだって裏切ったし、もうどうしたらいいの」


「大丈夫だ、今は無理でもいつか説得してわかってもらうから」


「いや、いや、いつかっていつ?明日?明後日?それとも5年先?10年先?」


「つむぎ」


彼は辛そうに唇を噛む。


もしかしたら、今日このまま彼と別れたらもう2度と合わせてもらえないかもしれない。


父の本気がわかるからこそ、そんな不安に押しつぶされた。


恐ろしい憶測が私の心を漆黒に染める。


「一緒に逃げて」


ポツリと出たのは自分でも信じられないような禁断の言葉。


だけど、口にしたらその魔力には逆らえない。


破滅への誘惑の声が自分の心の奥から聞こえた気がした。


「イオくんとならどこだっていい」私は取りつかれたように声を潜めて叫んでいた。    


お願い、私をさらって逃げて欲しい。


こんなこと言っちゃいけないのわかってる。


彼を困らせるだけ。


それなのに、自分を止められない。


「離れていたら、またイオくんに新しい婚約者がつくかもしれないよ。
会えなかったら私のこと好きじゃなくなるかもしれない」

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