聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
(……それに)

いずみは素朴な格好が一番似合う。

かつて彼女が着飾った姿を見てきたアーレスとしては、それが結論だ。
まるで戦地で健気に咲くすみれのような、素朴ながらも心をほころばせるようなそんな可愛らしさがいずみにはある。

もちろん彼女が望むならば何でも買ってやる気ではいるが、どうせ贈るなら似合うと思えるものを贈りたい。

(それに、今のところ、一番喜んでいるのはジョナス達と料理をしているときだしな)

思い出してムッとする。
単純に、自分といるときよりもジョナスといるときのほうがいずみが楽しそうなのが気に入らないのだ。

リドルには、『ジョナスは既婚者ですし、イズミ様から見れば年上すぎるでしょう』などど慰めのようなことを言われたが、ジョナスとアーレスは四歳しか違わないのだ。

(だったら俺もいずみにとって年上すぎるじゃないか……!)

彼女が自分と一緒にいて、安心したように笑ってくれるのが嬉しい。けれど、これはもしや兄に対するような感情なのではないかと思ってしまう。
初夜を過ごさなかったことで、今となってはいつ寝室を訪れていいのか分からなくなり、隣の部屋から物音がするたびに、不埒な妄想をしては筋トレする羽目になる。

「……はぁ」

ため息が止まらない。

(ああ。……俺はどうすればいいのだ)

恋愛ごとを避けてきて、かれこれ十八年ほどになる。
年を食って今更訪れたこんな気持ちに、アーレスはどう折り合いをつけたらいいのか分からないのだ

そう。それが恋という名のものだということも、分かっていないのかもしれない。
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