聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
そう、ハッセやアンリは特に子供だから、甥っ子や姪っ子のような気持ちで接している。
時々もう会えない自分の弟を思い出して寂しくなるけれど、彼らと接することで、少しずつ癒されるし、元気にもなれる。

「……アーレス様、ありがとうございます。みんなと一緒にご飯が食べれるの、嬉しいです」

にっこり笑ってアーレスにお礼を言うと、彼はふっと目をそらしてしまった。

「礼を言われるようなことではない。本来貴族の屋敷でこの状態は非常識なのだ。それだけは全員、念頭に置いておくように」

「はい」

なんとなく叱られた気分でうなずいたが、なぜかリドルとジナが体を震わせている。

「ジナ? どうしたの、寒い?」

「い、いえ。申し訳ございません。つい……その……。イズミ様も気になさることありませんわ」

「そうです。旦那様は照れてらっしゃるだけですから」

「リドル!」

リドルに指摘され、振り返ったアーレスの顔は真っ赤だ。

「旦那様は年の割に純情だなぁ」

「ジョナス! お前はもう少し敬意のあるしゃべり方を覚えろ!」

「へえ、すみませんね」

「ジョナス、全然かしこまってませんよ」

リドルの突っ込みに、みんなが笑い出す。いずみも腹の底から笑った。こんなの、久しぶりだ。

(ああ、……家だ)

無性に、そんな風に思った。
遠慮なく言い敢えて、笑いあったり怒ったりしながら、それでもひとつの屋根の下で暮らす。
それが家族だ。

「……いずみ? どうした?」

いつの間にか、いずみの瞳からは涙がこぼれていた。

「あれっ、すみません。うれしくて」

「なにが嬉しいんだ?」

(お父さん、お母さん……)

「突然異世界にきて、……もう家族なんて無くしたものだと思っていたから。……嬉しいんです」

家族だと思える相手がいることが、たまらなく嬉しい。

「イズミ……」

「奥さま」

「私の国では、みんなでご飯食べるんですよ。こうやって、手を合わせて、いただきますってして」

みんなを心配させてはいけないと、から元気で明るい声を出す。

「じゃあ、この屋敷ではイズミ風にしよう。今後は、皆で食事をする。いいな」

「はい」

アーレスのひと言に、みんなが頷く。
それがまた嬉しくて、いずみの目から涙が止まるのには、しばらくかかった。

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