聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
刺繍の髪飾り


 エイドの森へ向かう騎士団員は、アーレスとフレデリック、そのほか、団員が十名ほどだ。

「アーレス、近隣の街や村では、例のはやり病の患者が数人出ているらしい。メインの目的ではないだろうが、調べられるなら調べてきてくれ」

遠征の報告へ国王のもとに向かうと、青年王オスカーは真面目な顔でそう言った。
例の症状というのは、体のさまざまな部位から出血し死亡するというはやり病だ。
医者としても原因が特定できず、医者と僧侶だけが行える回復魔法での治療もいい成果が出ていない。
ミヤさまが整備してくれたダムのおかげで農業の生産は安定している。むしろ栄養は以前より取れているのに……と思うと、この病の原因がさっぱり思いつかない。

(いずみがこの病にかかったら大変だしな。早く原因がはっきりすればいいんだが)

隊列の先頭を走りながら、アーレスはいずみを思い出す。
今日も、朝からおにぎりなるものをもたされた。隣国から仕入れたというコメをいずみはいたく気に入っているらしい。
隣のルブタン王国で生産できるなら、気候的にはコメの生産は可能なはずだ。
今度新しい産業として国王に進言してみよう。

いつの間にか彼の世界の中心がいずみになっていることに自覚のないまま、アーレスは旅路の間中ずっとそんなことを考えていた。
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