聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~


騎士団一行は、エイドの森から最も近い街であるクルージにたどり着いた。
リリカ村はもっと近いのだが、そこには騎士団一行が泊まれる宿がないため、ここが駐留地となる。

王都をでて、最ものびのびとしているのがフレデリックだ。
意気揚々と宿に到着したあとは、「近辺視察に行ってきます」と出て行ってしまう。
仰々しい言い方をしているがただの散歩だ。

「あれは誰か好いた女でもいるのか」

あまりに楽しげなのでセイムスに聞いてみると、「団長、鋭いですね。奴の恋人のひとりがリリカ村にいるんですよ」と返される。

「……ひとり?」

聞き間違いかと思って繰り返すと、セイムスは当然のように頷いた。

「ええ。食堂のエイダには内緒ですよ」

と言われ、ますます頭がチンプンカンプンになる。
エイダとは騎士団宿舎の食堂で働いている娘だ。その名が、なぜここで出てくるのか。
不思議がるアーレスにセイムスは朗らかに笑った。

「団長もしかして気づいてなかったんです? エイダもフレデリックの恋人ですよ」

あっさり言われたが、アーレスには納得がいかない。

「こ、恋人というのはひとりだけのはずだろう。フレデリックは、分身でもできるというのか?」

「体は無理でしょうがね。心を二分することができるのでしょう、きっと。フレデリックは独身ですしね。咎められることもありませんよ」

セイムスは何の疑問も抱いていないようだ。
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