聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
(いや待て。今はそんなことがまかり通るのか? 時代なのか? いや、そんなこと許容していていいはずがない!)
「誰が許しても俺が許さん。フレデリックを呼んでこい!」
いきりたって立ち上がったアーレスを、話を聞いていなかった他の騎士団員が怯えたように見る。
「もう出て行ってしまいましたよ」
セイムスが苦笑する。だがアーレスのいら立ちは収まらない。
高圧的な姉・グレイスの教育のたまもので、彼は女性を傷つけるようなことは好まないのだ。二股など論外である。
「……追ってくる。残りの皆は明日からの調査のため、軽く訓練をしておくように」
怒りのあまり、扉を思い切り閉めてしまった。大きな音が響き渡り、中からは「怖えぇ!」と叫ぶ騎士団員たちの声がする。
外で掃除をしていた宿屋の使用人が責めるような目つきで見るので、「すまん」と小声で謝った。
一瞬トーンダウンしたが、考えれば考えるほど怒りは膨らんでいく。その勢いのまま街へ出たが、フレデリックの姿はすでに見えない。
おそらくリリカ村に行ったのだろうとアーレスは馬を走らせた。
リリカ村までは早駆けして二十分の距離だ。エイドの森にほど近い位置にある。
村の入り口の木の枝に手綱を結ばれたフレデリックの馬を発見し、アーレスも馬を下り、暴れないようにしっかり手綱を押さえたまま村の中に入った。
(さて、フレデリックの奴、どこで浮かれていやがる)
拳を鳴らし、腕を回して正義の鉄拳をふるう準備は万端だ。