聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~

しらみつぶしに村中を捜し歩いたアーレスは、予想もしていないところで彼を見つけた。
村の最奥、墓場の前だ。
彼には宿を出ていったときの浮かれた様子は全くなく、すっかり肩を落として、十字に結ばれた木の墓の前に立ちすくんでいる。
アーレスは立ち入っていいものか迷ったが、踏みつけた枯れ葉の音で気づかれたようなので、そのまま彼に近づいて行った。

「……フレデリック」

「三月前に亡くなったそうです。ほら、例の原因不明のはやり病? 体中から血を出すとかいう……」

「これまで、連絡はなかったのか?」

「俺と彼女は正式な恋人でも婚約者でもありませんからね」

乾いた声でフレデリックが続ける。「恋人だとセイムスは言っていたぞ」と言えば、彼は痛みを感じているかのように顔をしかめた。

「恋人ではありません。ですが、割り切った付き合いをしていました。俺が前に、結婚直前に婚約者に裏切られた話はしたでしょう? ……結婚とかそういうものは正直うんざりで。だったら、恋愛だけを楽しめばいいと思っていたんですよ。平民は貴族と違ってそういった貞操観念が緩くて、例えば夫がいても誘いにはのってくれる。彼女は別に既婚ではなかったですけどね。割り切って付き合ってくれました」
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