聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~
「それは……感心しないぞ」
「はは、団長らしい……」
フレデリックの軽い声に、湿度が増した。
やがて、肩が嗚咽に震える。アーレスは慰めるような気分で彼の肩を叩く。
「……恋人だとちゃんと言っていれば。……約束を交わしていたなら、村人から知らせが来たかもしれない。俺は阿呆ですね。大切な人の死に目にも会えないなんて」
フレデリックは本気で悲しんでいるようだ。アーレスも一瞬同情しそうになったが、だったら食堂のエイダはどうなったんだと疑問も湧く。
しかし、墓の前で憂いている部下にそれを突っ込むほど、無慈悲でもない。
「泣けばいい。どんな関係であれ、お前にとって大切な人だったことには変わりないだろう」
「団長……。意外と優しいですね。惚れちゃいそうです」
涙声のままいつもの軽口を吐くフレデリックは、拳をギュッと握って膝をついた。
「以前見せたでしょう、刺繍飾り。……彼女はあれの職人だったんです。もしよかったら、団長も買ってやってください。最後の作品が今まだ残っているそうです」
「……そうか」
泣きたいとき、誰かに傍にいてほしいこともあるだろうが、それが上司ではないだろうと判断し、アーレスは静かにその場を去る。
つくづく女運のない男だ。いっそ気の毒になる。